日本だけでなく、世界に目を向けてみると、地域によってさまざまな「シチューのかたち」があることが分かります。そんな多種多様なシチューの種類と魅力を、レシピとともにご紹介します。また、シチューの発祥や語源など、シチューについてちょっぴり詳しくなれる豆知識も必見です!
シチューの語源はフランス語の古語「estuver」という言葉からきているとされています。これは、現代のフランス語で「蒸し煮にする・煮込む・蒸す」などの調理用語としても使われる「étuver(エテュベ)」にあたります。この他にもシチューつまり煮込み料理を指す言葉として広く使われるものには、フランス語の「ragoût(ラグー)」などもあげられます。
次に、英語表記の「stew」の意味についても見ていきましょう。小学館刊の国語大辞典『言泉(げんせん)』には、以下のように記されています。
シチュー(英:stew)
肉と野菜をスープで長時間煮込んだ西洋料理。「ビーフシチュー」
シチューという言葉には、料理名の他にも「食べものをゆっくりとろ火で煮る」「蒸し風呂用の浴室・温浴」の意味も。派生的な意味では、「異質のものの混合」「暑さと渋滞の状態」などの意味があるそうです。名詞として使われはじめたのは1300年以前からで、1400年頃になると動詞としても使われるようになったようです。
英語には、調理法をあらわす言葉で「stew」に近いものとして、「蒸し煮」を意味する「braise(英:ブレイズ)」があり、「casserole(英:キャセロール)」のように調理に使用する鍋と料理名の両方を意味する名称などもあります。他にも、とろ火でぐつぐつ煮るという動詞「simmer(英:シマー)」なども。
また、過去の文献ではさまざまな種類の「シチュー」が登場しています。
ミシェル・ブラウン著『ロイヤル・レシピ』に記された英国王家の食卓の様子をみてみると、ウイリアム2世(1087〜1100在位・以下同)の食卓には鹿肉、かぶ、にんじん、玉ねぎのシチュー、ジョン王(1199〜1216)の場合はうなぎと玉ねぎを使ったサフラン風味のシチューが登場しています。他にも、リチャード2世(1377〜1399)は料理人2000人を抱えたといわれるグルメでしたが、ハーブやにんにくを詰めたハトのシチューを、ジョージ4世(1820〜1830)の食卓には、マディーラ・ワインとエスパニョールソースを使ったうずらのシチューが登場しています。
アイリッシュ・シチューは、アイルランドの家庭料理のひとつで、羊肉(ラムやマトン)とじゃがいもをいっしょに煮込んだ料理。作り方は家庭によってもさまざま。一口食べるとほっとあたたまるような、滋味深い味わいです。
オックステイル・シチューは、イギリスの代表的な煮込み料理。オックステイル、すなわち牛の尾を煮込むことによって、ゼラチンを含んだ「腱」の部分が柔らかくなり、煮汁にうまみが溶け出し、深みのある味わいを作り出します。
ジビエのひとつであるうさぎ肉を使ったシチュー。うさぎ肉の淡白でありながらコクのある味わいを堪能することができます。
鶏肉を赤ワインで煮込むコック・オ・バン(仏:coq au vin)。フランス・オーヴェルニュ地方の料理で、フランスの定番の家庭料理として知られています。元々は成熟した雄鶏(coq)を骨付きのまま使っていましたが、現在は雄鶏に限らず、身の柔らかい若鶏などを使うことも。名前の「バン(vin)」は、ワインのことです。
「ドーブドブフ」(仏:Daube de bœuf)は、フランス・プロヴァンス地方発祥の牛肉のワイン煮込み。赤ワインを使ったもの、白ワインを使ったもの、どちらも存在します。「ドーブ鍋」という土鍋の一種を使うのが、伝統的な作り方です。
フランス中西部・ラングドック地方の代表的な料理で、白いんげん豆と豚・羊などの肉類、ウインナーソーセージなどを煮込んで作ります。白いんげん豆のやさしい甘さが特徴的です。
世界三大スープのひとつ。フランス・マルセイユなど地中海沿岸地方でよく作られる料理で、魚介類をトマトやハーブ、サフランなどといっしょに煮込んで作ります。魚介類のうまみがぎゅっと凝縮された味わいで、サフランの華やかな香りも特徴的です。
ルーラーデンはドイツ発祥で、牛肉の薄切りで、玉ねぎ、ピクルスなどを巻いて煮込んだ料理です。
グヤーシュはパプリカをきかせたハンガリーの代表的な料理。特徴的な赤色はパプリカパウダーによるもので、辛くはなく、うまみたっぷりの味わいです。
イタリアの代表的な郷土料理で、仔牛の骨付きすね肉を香味野菜などといっしょに煮込んだものです。骨付き肉を使うので、濃厚なうまみが楽しめる一品です。
ロシアの家庭料理のひとつ。牛肉、玉ねぎ、マッシュルームなどを煮込み、サワークリームを仕上げに加えて作ります。クリーミーでありながら、ほのかに酸味がある味わいが特徴です。
ジョージアの伝統的な家庭料理、シュクメルリ。鶏肉をにんにくがたっぷり入ったクリームソースで煮込んでいます。にんにくのパンチのきいた味わいが特徴的で、「ごはんによく合う」と日本でも人気の高い料理です。
スウェーデンの定番家庭料理といえばミートボール。ひき肉で作ったミートボールを、クリーミーなソースで煮込み、リンゴンベリーの甘酸っぱいソースやマッシュポテトなどを添えていただきます。
クスクスは、小麦粉など穀類を小さな粒状にして蒸したもので、北アフリカでよく食べられています。また、クスクスを肉や野菜の煮込みと合わせたものも「クスクス」と呼びます。使う食材によって、牛のクスクス、鶏のクスクス、など種類はさまざまです。
西アフリカで親しまれている代表的な家庭料理のひとつ。鶏肉や牛肉をピーナッツバターとトマトで煮込んだ料理です。ピーナッツバターの濃厚なコクとトマトの酸味が特徴的な一品です。
チリビーンズ(チリコンカン/チリコンカルネともいう)は、牛肉と豆をチリパウダーで煮込んだ代表的なメキシコ、アメリカの煮込み料理のひとつ。テキサス州の「州の料理」に認定されていることでも知られています。スパイシーでクセになる味わいです。
モレ・ポブラーノ・デ・ポロは、メキシコ発祥の、鶏肉をチョコレートソースで煮込んだ料理。「モレ」とは、唐辛子やクミンなどさまざまなスパイスとチョコレートを合わせた、メキシコの伝統的なソースのことを指します。甘みは少なく、ほろ苦さのある味わいが特徴です。
ブラジルの代表的な料理のひとつで、黒豆と牛肉や豚肉(生または塩漬け)、モツなどを煮込んだもの。肉類のうまみと黒豆のコクのある味わいです。
スペアリブなどの骨付き肉を、シナモンや八角、クローブなどのスパイス類で煮込んだもので、シンガポールやマレーシアでよく食べられている料理です。スープはしょう油ベースのものや、コショーがきいたタイプのものがあり、白米にかけて食べるのが一般的です。
サムゲタン(参鶏湯)は、朝鮮半島に古くから伝わる料理。丸ごと1羽の鶏の腹に朝鮮人参ともち米、なつめ、栗、松の実、にんにくなどを詰めて長時間煮込んで作ります。韓国では「夏の料理」とされることも多く、滋養のつく食材がたっぷり入っています。
明治時代の中ごろから、レストランメニューとして登場しはじめたといわれるシチュー。昭和時代には、ホワイトソースで作られた「白いシチュー」が普及し、戦後の学校給食を皮切りに、日本全国で食べられるようになりました。しかし、当時はホワイトソースから作る必要があり、一般家庭では再現が難しい状況でした。
そんななか、ハウス食品が1966年に「シチューミクス」を発売。まだ家庭料理として浸透していなかったシチューを、家庭で簡単に作ることができ、日本人の口に合う料理として新たに生まれ変わらせたのです。このころから、牛乳などを使ったまろやかな「クリームシチュー」が主流となっていきました。
それ以来、シチューは日本の食卓に広く浸透し、時代の変化とともにさまざまな調理法や食べ方で親しまれてきました。
今日、シチューは定番の家庭料理として欠かせない存在になっています。これからも変化を続け、日本の食卓を多様に彩ってくれるシチューの今後から目がはなせませんね。
「シチューのじかん」編集部
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