



「今回ハウス食品さんとコラボして、あらためてうちのカレーの個性や特徴というものが分かりました。それはやっぱり、苦みなんだなって」
大阪府大阪市の人気店『アイリッシュカレー』のオーナー、糸林宏将さんはそう語りだした。カレーのベースはキャベツ、にんじん、玉ねぎどの野菜を煮込んでのブイヨンづくりから始まり、そこにフルーツチャツネ、唐辛子、にんにく、しょうがなどを加えてさらにじっくりと加熱していく。欠かせないのが、仕上げに加えるギネスビールだ。
「うちはアイリッシュパブ。ギネスビールをカレーのコク出しにも使っているんです。ほどよい、なんともいえない苦みと深みを加えてくれるんですよ」
メインの具材となる豚バラ肉も、最初に焼きをつけてからギネスビールとブイヨン、水でじっくり1時間以上煮込み、やわらかく仕上げてからソースに加えられている。



キーとなる苦みが開発上、最大の難点となった。
「苦みは通常、食べてすぐ感じるものではなく、後のほうで感じるものなんです。けれど『アイリッシュカレー』さんのは味わってまず出てくるのが苦み、そして甘み、辛さと続いていく。この順序を表現するのがすごく大変でしたね」
そう語るのはハウス食品開発研究所の布施夏子さん。そもそもレトルト食品は高温での加熱殺菌が不可欠であり、苦みが飛びやすいというのも困難に輪をかけた。
「同時にこちらのカレーは要素としてフルーツの甘みも大事なんです。リンゴとバナナが重要な2大要素ですが、リンゴも酸味の少ないもの、甘みの濃いものなど種類もいろいろ。そのあたりも配慮しつつ組み合わせを考えました。ただ甘みが際立っても肝心の苦みが表に出てこない。悩みどころでしたね」
正直、難題だったと布施さんはもらす。材料の吟味、試作を重ねる日々が続く。





打開策となったのが、スパイスの組み合わせ方だ。クミンをメインとしたスパイスの配合、そのバランスによって、『アイリッシュカレー』らしい苦みのある香り、フルーツ感の表現に成功する。そして麦芽をローストして加えることで、さらに苦みをリアルでクリアなものにした。「ああ、この感じ。うちの味わいですね」と糸林さんも太鼓判。
「お店のファンの方の期待を裏切ってはいけない。プレッシャーの大きい仕事でしたが、最終的には自信作となりました」
布施さんはそう語って、目を輝かせた。




「ご家庭でよりおいしく味わうために、何かひと工夫するとしたら?」そんな質問を、糸林さんにぶつけてみた。
「お店で出すときは、フライドオニオンとキャベツのピクルスを添えています。オニオンはあまり茶色くしすぎず、軽く揚げる程度が甘みを感じられて、うちのカレーにはよく合うと思いますよ。またキャベツは甘酢と一緒に刻んだ唐辛子を漬けて、ちょっと辛めにしています」
この2つを添えれば、自宅でお店さながらの仕上がりに。お試しあれ。

