戦前の香りが今も漂う東京・根岸エリア。近隣の人々のみならず、区外、いや旅行者たちもわざわざ訪れる人気の洋食店がある。その名は『レストラン 香味屋』、大正14年創業と歴史は古い。誠実で丁寧な仕事に定評があり、クラシックな日本洋食のおいしさを引き継ぐ店として人気を集め続けている。
シンボリックなメニューがビーフシチューだ。
牛かたまり肉を店で時間をかけてばらし、赤身や脂の量を計算して理想的なバランスにしたのち、たっぷりの香味野菜、鶏がらなど、それぞれローストしてから大鍋でじっくりと煮込んでいく。
この煮込みには4日間ほどの時間をかけ、丁寧に濾してさらに牛肉や香味野菜を加えて数時間煮込み、また濾す。
ケチャップや赤ワイン、ウスターソースや香辛料などで調味して仕上げている。今回のその奥深い味の世界に挑んだのが、ハウス食品開発研究所の中でもベテランの研究者、萩原千絵氏である。
「ビーフシチューのお手本のような味わいだと思いました。牛肉はたっぷり大ぶりで柔らかく、肉自体の味もしっかりと残っている。そしてデミグラスソースがまた素晴らしい。
濃厚なのですが、それでいてさっぱりと食べられるんですね。これをレトルトで表すのは正直、難しいだろうな……と思いました」
『レストラン 香味屋』のビーフシチューをはじめて食べたときの思いを、萩原氏は率直に語ってくれた。
さらりとしつつもコク深く、うま味は強いけれどしつこくない。
そう、「濃厚ではあるが、さっぱりとしてもたれない」のが『レストラン 香味屋』のデミグラスソースの魅力なのである。ここの表現に難しさを感じた。
「作り方やポイントは、料理長の小田倉光夫さんがすべて丁寧に教えてくださったんですが、やっぱり最初に試食していただいたときは、うまくいきませんでしたねえ(笑)。しょっぱさが際立って、「うちの味では……」とお店の方々を困らせてしまいました。しまった、と思いましたね」
ひたすら研究と試作を重ねる日々が続いた。香味野菜のうま味や甘みをよりリッチに足してゆき、贅沢な味わいの表現に迫った。お店のような大ぶりの牛肉のスケール感、ここの実現もまたやりがいのあるポイントだったと萩原氏は語る。
「大きくすると加熱時間が長くかかってしまうので、パサつきやすくもなるんです。
あの柔らかな、とろける食感を表現するために、技術部門の人たちと協議を何度も重ねました」
デミグラス風味の味わいは、ケチャップやウスターソースを最後に加えるお店のやり方がヒントになった。「何度も何度も頑張ってくれて、塩気と甘み、酸味のバランスのよいソースが
レトルトでも味わえるようになりましたねえ」
と小田倉氏は満足そうに微笑む。大ぶりの牛肉を柔らかく仕上げることも最終的には達成。
夏に始まったレシピ制作は、気がつけば冬を迎えて、ようやく太鼓判をいただくに至ったのである。
よりおいしく、楽しく『老舗のビーフシチュー』を味わうためのヒントを、小田倉シェフが教えてくれた。
「お店ではビーフシチューにじゃがいものグラタンを添えています。
じゃがいもをマッシュにするのは大変かもしれないので、粉吹きいもを作って添えてはどうでしょうか。ソースと一緒に食べるとおいしいですよ。あるいはミニトマトを湯むきして添えたり、ゆでたブロッコリーを添えたりしてもいいですね。見た目も引き立ちます」
本製品のビーフシチューはパンのみならず、ごはんにもよく合う味わいとなっている。
パン党のあなたも、ごはん党のあなたも、ぜひ試してみてほしい。