

東京・西荻窪は、個性的な店の多い中央線沿線の中でも名店が多いエリアとして知られる。多様なジャンルの飲食店が居並ぶ中、長きにわたり人気を博している一軒が、『フレンチカレー スプーン』だ。オーナーシェフの和田直樹さんはフレンチレストランで修行を積んだ後、28歳で独立。多くの人が訪ねやすい店を作りたいと考え、フレンチ的な煮込み料理の手法で独自のカレーを考案し、店の目玉に据えた。
「牛骨や香味野菜をじっくり炒め焼きにして煮出したフォン・ド・ヴォーを、さらに煮詰めて作るグラスドビアンをベースに、牛と豚それぞれのばら肉を炒めて、6時間ほどシュエ(フランス料理の手法でゆっくり炒めて水分を飛ばすこと)した香味野菜、あめ色玉ねぎ、13種のスパイスと合わせたものが、うちのカレーの基本です」と和田シェフ。完成するまでには5日間もの時間をかけているというから驚きだ。



「最初食べたとき、お肉のうまみが強くて、かつ味にキレがあるなあと思いました。厚みのある味わいだけどサラッと仕上がりは軽い。タイムの香りがトップに来て、辛みのベースはこしょうになっている」
和田シェフの世界の商品化に取り組んだのは、ハウス食品開発研究所の古市愛莉氏。実際に食べてみて感じたもろもろを、レトルトとしてどう表現するのか? 入社3年目、カレーのレトルト開発は初担当だった。だが不慣れを感じさせない、幸先のいいスタートだったとシェフは目を細める。「最初の試作から、うちの味の方向性に合ったものを持ってきてくれたので安心したんですよ」。コクがあるのにすっきりした味わい、そのバランスの表現が見事でおいしかったと。しかし事は簡単には運ばなかった。



大変だったのは「スパイスの香らせ方」と古市氏は振り返る。「中粗びきにしたスパイスを、お店では2回に分けて入れるんです。煮込むときと、仕上げのとき。レトルト製造で同じようにするのは難しく、また高温殺菌が欠かせないので香りも立ちにくい。そこをどうするかは苦労しました。また中粗びきならではの歯ざわりと、煮込んだお肉の食感をお店の雰囲気に近づけることも心がけました」。味のメリハリをつけるために酸味もほどよく効かせることで、重くならない味わいを表現。また、和田シェフはあえて水分と油分を乳化させないことでスパイスを香り立たせている。なので盛りつけるとカレーソースには油分がほんのり浮いてくるのだが、その感じを再現するため、オイルを製造の仕上げに後入れするという工夫も凝らした。最終試食では「うん、おいしいじゃないですか!」と和田シェフはにっこり。「古市さんはセンスあるから、大丈夫だと思ってました」と嬉しそうに言ったのだった。




さて、ご自宅で『フレンチカレー<ビーフ>』をよりおいしく味わうためのポイントを和田シェフが教えてくれたので、ぜひ試してみてほしい。
「ごはんは炊きたてでなく、数時間保温したものを使ってみてください。炊き立てごはんは、カレーに合わせるには表面の水分が多すぎるんです。水分を落ち着かせてからだと、カレーのおいしさがぼやけません」
そしてもし、スパイスがあれば“追いスパイス”もおすすめだ。「クミンやコリアンダー、カルダモンなどのパウダーを少しかけていただくと、よりおいしくなります。黒こしょうを足せば、さらにうちっぽくなりますよ」
手間ひまかけた本格的な味わいをさらに豊かに、おいしく食べるシェフのコツ、ぜひお試しあれ。
